世は2021年、新型コロナウィルスの感染拡大により急激に世界が一変してからおよそ2年。
大混乱の中で奈良の数々のイベントも中止や無観客開催を余儀無くされた結果、伝統行事がオンラインにて中継されるという突如訪れた想定外の近未来。
こんな時代にも関わらず、奈良時代に生きた『長屋王』という人物は一部奈良市民の心に深く刻まれ、当時起こったとされる『長屋王の呪い』は奈良市のとある地で未だに言い継がれているのである。
現代に噂される『長屋王の呪い』
とある地、とはこの場所である。
『長屋王邸跡』。
現在、複合商業施設『ミ・ナーラ』がある場所だ。
この場所で『長屋王の呪い』が言い継がれている理由、それは1989年にこの地に開業した『奈良そごう』が長屋王邸宅跡の上に建設され、そして早々に閉店していったからである。
さらにその後この奈良そごう跡に開業した『イトーヨーカドー奈良店』も閉店したことで、呪われているのは奈良そごうそのものではなくこの長屋王邸跡という土地であると解釈される。
そして2018年、ミ・ナーラの開業。地元民たちは口々に「今度は大丈夫なのか」「あそこには長屋王の呪いが…」などと噂したのだ。
そもそも長屋王とは?
私は大変日本史に疎く奈良に移住するまで長屋王という名前すら記憶していなかった人間であるので、ボロが出ないよう最低限の情報だけお伝えすると、長屋王は〈奈良時代のとても偉い人〉である(最低限の限界)(日本史に詳しい人が読まないことを祈る)。
おじいちゃんが天武天皇、おばあちゃんは天智天皇で(語彙にボロが出始めている)、奥さんは元明天皇の娘さんという超サラブレッド。
藤原不比等(聞いたことある!!!)が亡くなった後に国政の中心人物にまでなったとか。
この辺の情報は先ほどのアレに書かれていた。各自ご確認いただきたい。
長屋王の変と呪い
日本史に恐ろしく疎い私はピンと来なかったが、『長屋王の呪い(祟り)』という噂は奈良時代からあったようである。
それに深く関わっているのが、通称『長屋王の変』。対抗勢力であった藤原四兄弟が首謀し、長屋王は国家転覆を企てていると疑われ糾弾されたことで自殺するのだ。
しかしその長屋王の変の後、藤原四兄弟は相次いで亡くなる。原因は天然痘とされているが、「長屋王の祟りだ」と噂されたことは想像できる。
そして時は流れて1988年、長屋王邸跡は発見される。これは奈良そごう建設に伴い行われた発掘調査によるものである。
遺跡が発見された当時、奈良そごうの建設を反対する声が当然上がった。そこを押し切り建設された奈良そごう。
営業できたのは11年間。確かに百貨店としては短命だが、果たしてこれも長屋王の呪いだったのだろうか?
立地の悪さという呪い
奈良そごう開業当時を知るアラフィフ奈良っ子の友人に話を聞いた。
「奈良そごうはめちゃくちゃ凄かった。大阪の百貨店でもあまりないくらいに凄く立派で豪華。だからこそ『なぜここにこんなものを作るのか?』という異質感があった。奈良駅前などに建設するならわかるが…。開店当時は行ったかもしれないが、頻繁に行ったという記憶はない」
調査数が1なので言い切ることはできないが、地元民にとって奈良そごうは必ずしも待ち望んだものではなかったようだ。
閉業したのは2000年。莫大な初期投資が経営を圧迫したことや、立地的に再生が困難と判断されたことが理由だという。
実際、この場所の立地はあまり良くない。最寄り駅は近鉄新大宮駅だが距離は1kmほどあり、歩くと15分程度かかる。
また、店舗の裏には広大な駐車場があるものの、これが入りにくいとよく聞く。建物は大宮通り沿いにあるが、ぐるりと建物を回って駐車場に入らないといけない。
奈良そごうの後にはイトーヨーカドーが入りいくらか一般市民向けになったものの、少し離れたところに住む人からすると「わざわざ行くのは面倒」ということだったらしい。日々の買い物は近くのスーパーで済まてしまう。さらにこの場所は平城宮跡や幹線道路に近いこともあり、大規模な住宅街は無い。
そして2010年、お隣の大和郡山市に大規模な『イオンモール大和郡山』が開業する。先のアラフィフ奈良っ子も、ショッピングの際はヨーカドーには行かずに郡山イオンへよく行ったと言う。その影響がどれほどあったかはわからないが、イトーヨーカドー奈良店は2017年に14年間の営業を終える。
頑張るミ・ナーラ
そして2018年、現在のミ・ナーラがオープンする。
“観光型複合商業施設”と謳い、新進気鋭のアーティストが手がける『金魚ミュージアム』や屋内型エンターテインメント体験施設 『NINJA TOWN』をオープン。「学生から訪日外国人観光客まで幅広い人々に喜ばれる世界を目指す」とのことだった。
奈良そごう時代の設備を活かした豪華で広大な店内。に、およそ60のテナント。
…かなり持て余している。
そりゃそうだ。全盛期のそごうが初期投資850億円をかけて建設した7階建ての豪華絢爛な建物を再利用しようとしているのだから、なかなかの難問である。私はかつてミ・ナーラオープン前に「一階から7階まで東急ハンズだったらいいのに」などと考えていたが、恐らく東急ハンズでも持て余す建物だろう。
そもそもの立地の悪さ、競合商業施設、そして襲いかかる新型コロナウィルス世界。
それでも闘うミ・ナーラ。
立地の悪さは近隣各駅から出る無料シャトルバスで対応。
広すぎる余剰空間で大規模なイベントを企画。大規模ワクチン接種会場の受け入れ。
関東大手スーパー『ロピア』の奈良一号店の誘致。
屋上にはまさかのビーチが誕生。
奈良そごうのような百貨店やイオンモールのような企業では実現できないであろう自由で柔軟な動きで『長屋王の呪い』の噂から脱却しようとしているのがヒシヒシと伝わってくる。
ミ・ナーラの面白さと頑張りをぜひ知ってもらいたく、ミ・ナーラ徹底レポと言う記事も書いた。長いので、もしお時間があるならどうぞ。↓
去年合意された近鉄奈良線の地下化が無事完了し新駅である朱雀大路駅(仮称)が完成すれば、近辺も賑わいを増し立地の悪さも改善するかも。
工事着工は2041年予定で完成は2060年予定だけど!
新駅できても10分くらい歩くけど!
その日まで、頑張れミ・ナーラ!
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